防災リュックの着替えは、枚数ではなく素材で考えてください。非常持出袋に入れられる重量には限りがあります。着替えを何枚も詰めると、水や食料など他の備えが入りません。
優先すべきは「濡れても体温を奪われにくい」「乾きやすい」「洗えなくてもニオイが出にくい」の3点です。この条件を満たす素材を選べば、少ない枚数で避難生活を乗り切れます。
なぜ防災の備えに衣類が必要なのか
防災グッズというと水・食料・携帯トイレが思い浮かびますが、衣類は後回しにされがちです。実際、防災リュックに着替えを入れていない方は少なくありません。しかし避難の場面では、衣類が体を守る役割を担います。
濡れたまま過ごすリスク
豪雨や水害では、避難する時点で衣類が濡れています。濡れた衣類を着続けると、気化熱によって体温が奪われ続けます。気温がそれほど低くなくても、体温の低下は起こり「低体温症」のリスクが高まります。避難所に暖房がない、あるいは屋外や車中で夜を明かす状況では、尚このリスクが高まります。
洗濯ができない
断水すると洗濯ができません。避難所に洗濯設備があるとは限らず、あった場合でも順番待ちになります。衣類を清潔に保てない状態は、皮膚のトラブルや感染症のリスクにつながります。また、ニオイは精神的な負担にもなり、長期化するほど影響が大きくなる部分です。
公的機関が示している備蓄の考え方
政府広報オンラインおよび農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」では、最低3日分、できれば1週間分の備蓄(※)が推奨されています。内閣府防災情報のページでは、南海トラフ巨大地震のような広域災害では1週間以上の備蓄が望ましいとの指摘が紹介されています。この背景には、発災から3日程度は救命救助活動が優先されるという想定があります。
(※)「3日分・1週間分」は食料と水についての指針です。
非常持出袋の重量については、広島県の減災ポータルサイトが男性15kg、女性10kgを目安として示しています。ただしこれは自治体が示す数値であり、国の統一基準ではありません。自治体によって異なる数値が示されている場合があります。飲料水は1人1日3リットルが目安とされており、3日分では9リットル、重量にして約9kgになります。水だけで目安重量の大半を占める計算です。
衣類にどれだけ重量を割けるか
以下は、本記事での独自の考え方であり、国や自治体などの公的機関が示す基準ではありません。ひとつの目安・考え方としてご自身やご家族の状況に合わせて調整してください。
前述の重量目安から逆算すると、水・食料・携帯トイレ・救急用品を入れた時点で、衣類に割ける重量は多くありません。そのため本記事では、次のように分けて備えることを提案します。
| 保管場所 | 衣類の考え方 |
|---|---|
| 非常持出袋 (すぐ持ち出す) |
重量を最優先し、枚数は絞る |
| 自宅備蓄 (在宅避難用) |
普段着ている服を出しやすい場所にローテーションで確保 |
| 職場・車 | 帰宅困難に備え、上1枚と靴下や下着 |
※内閣府は備蓄を「すぐ持ち出すもの」「3日間を生き抜くもの」「避難生活を快適にするもの」の3段階に分ける考え方を紹介しています。上の表は、その考え方を衣類に当てはめて本記事で整理したものです。
枚数を増やせない以上、1枚をどれだけ長く着られるかが現実的な論点になります。ここで効いてくるのが素材です。
また別の視点から、水の確保については最低限の水と「携帯浄水器」を備蓄しておくことで軽量にできる+万が一の備えにも安心です。世界中で評価を得ているブランド「Sawyer(ソーヤー)」というメーカーは防災推奨商品にも選ばれています。
防災用の衣類に求められる3つの条件
1. 濡れても体温を奪われにくい
避難時に、雨や雪、水害で濡れる可能性があります。重要なのは濡れた後です。濡れても保温性が残る素材であれば、着替えられない状況でも体温の低下を抑えられます。
2. 乾きやすい
すぐに暖房や乾燥機が使えない環境では、着たままの場面が出てきます。乾くのが遅い素材ほど、濡れている時間が長くなります。
3. 洗えなくてもニオイが出にくい
断水下では洗濯ができません。ニオイが出にくい素材であれば、同じ1枚を着られる期間が延びます。
素材で比較|メリノウール・化学繊維・綿
| 項目 | メリノウール | 化学繊維 | 綿 |
|---|---|---|---|
| 濡れた時の保温性 | ◎ | ○ | × |
| 乾きの速さ | ○ | ◎ | × |
| 洗えない時の防臭性 | ◎ | × | △ |
| 価格 | △ | ◎ | ◎ |
※各素材の一般的な性質にもとづく比較です。製品ごとに編み方や混率が異なるため、実際の性能は製品により異なります。
化学繊維は「着替えられるなら」有効
速乾性は最も優れています。着替えを十分に確保できる自宅備蓄であれば、有力な選択肢です。ただし洗えない環境ではニオイが残りやすく、避難生活が長引くほどこの差が出てきます。
メリノウールは「洗えない状況」に強い
メリノウールは、メリノ種の羊から採れる羊毛です。一般的なウール繊維の太さが約30ミクロンなのに対し、メリノウールは約17〜23ミクロン(1ミクロン=1/1000mm)と細く、肌に直接着てもチクチクしにくい素材です。防災の観点では、次の3点が働きます。
- 濡れても保温性が落ちにくい
避難時に濡れても、体温の低下を抑えられます。 - 汗を水蒸気の状態で吸って放出する
肌がドライに保たれ、汗冷えを防ぎます。 - 天然の抗菌作用でニオイが出にくい
洗濯できない環境で、着続けられる日数が延びます。
ただし化学繊維と比べると価格が高く、繊維としては擦れに弱い面もあります。
季節に応じた入れ替え
災害はいつ起きるか分かりません。他の防災用品の見直しに合わせて、季節ごとに中身を見直すことをおすすめします。
| 季節 | 優先する機能 | 検討したいもの |
|---|---|---|
| 春・秋 | 寒暖差への対応 | 薄手の長袖+羽織りもの |
| 夏 | 防臭・衛生 | 薄手の長袖(虫・日射対策も兼ねる) |
| 冬 | 保温・濡れ対策 | 長袖+靴下+手袋・帽子 |
冬は靴下や帽子も検討してください。足元や頭部は放熱が大きい部位とされ、これらは軽量なため、限られた重量のなかでは入れやすい品目です。夏でも長袖が有効です。避難所や屋外では、日射と虫から肌を守る必要があります。
備えとして選べるメリノウールウェア
ウールパワーは、スウェーデン北部で1969年に創業したメリノウール専門ブランドです。スウェーデン国防軍の極寒冷下での事故という課題に対し、研究機関・企業・軍が共同で生地を開発したことが原点にあります。
防災用に新品をしまい込む必要はありません。着慣れていないウェアは、いざというときにサイズや着心地が合わない問題が起きます。普段使いのものを1枚多めに持ち、古くなったものを防災リュックに入れ替えていく方法が現実的です。食料のローリングストックと同じ考え方です。
ウールパワーのメリノウールウェアは、メリノウールの含有率が高くありながらも丈夫であたたかくて軽量なのが特徴です。メリノウールの含有率が高ければ、よりにおいにくい性質が働くので、1枚だけでも取り出しやすい位置や防災リュックに入れておくのが良いでしょう。
「クルーネック200」は、ベースレイヤー(インナー)としての使い方が一般的ですが、いざとなれば軽量のセーターの役割としても活用できます。「フルジップ400」は、アウターにもミドルレイヤー(中間着)として使うことができます。メリノウールウェアを防災用品として一着持っておくことは、万が一のときに守ってくれる存在かもしれません。
よくある質問(FAQ)
Q.防災リュックの着替えは何日分が必要ですか?
A.衣類の必要枚数を定めた公的な基準は見当たりませんでした。食料と水については最低3日分、できれば1週間分が推奨されていますが、これは衣類を対象とした指針ではありません。非常持出袋には重量の制約があるため、枚数を増やすより、洗えなくても着続けられる素材を選ぶ考え方をおすすめします。
Q.防災用の衣類はどんな素材を選べばいいですか?
A.保温性が高く、乾きやすく、洗えなくてもニオイが出にくい素材が、制限された環境下では機能を発揮します。ご自身の状況や環境に合わせて選んで頂くことが必要です。
Q.防災リュックの中身は季節ごとに入れ替えるべきですか?
A.食料品と他の用品に合わせて見直すことをおすすめします。特に冬は靴下・手袋・帽子の追加を検討してください。軽量なため、限られた重量のなかでも入れやすい品目です。
Q.防災用の衣類は新品を用意すべきですか?
A.普段から着ているものを回すほうが確実です。着慣れていない衣類はサイズや着心地が合わない問題が起きます。定期的に入れ替えるローリングストックの考え方が有効です。
まとめ
- 公的機関が示す「3日分・1週間分」は食料と水についての指針。衣類の枚数を定めた基準は見当たらない
- 非常持出袋には重量の制約がある。自身に必要なものを検討し選択する必要があり。
- だからこそ枚数より素材で考えることも一つ
- 条件は濡れても保温・乾きやすい・ニオイが出にくい
- 新品を寝かせるより、普段着ているものを回す
備蓄の目安や避難所の状況は、お住まいの地域によって異なります。自治体が公開している防災情報を必ずご確認ください。
出典
- 内閣府 防災情報のページ「できることから始めよう!防災対策」
https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/73/bousaitaisaku.html - 内閣府 防災情報のページ「特集 災害の備え、何をしていますか」
https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h22/09/special_01.html - 広島県 減災ポータルサイト「防災グッズ一覧」(非常持出袋の重量目安・飲料水の目安)
https://www.gensai.pref.hiroshima.jp/prepare/goods.html - 農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」(備蓄期間の考え方)
※本記事のうち、衣類の備え方に関する記述は、上記の公的情報をもとに編集部が整理した考え方です。公的機関が衣類の枚数を定めたものではありません。